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ISHIDA
KOHEI
"Bookshelf of The Dead" / Architecture Design / ERI Design Competition Special Prize
死者の所有していた本でつくる図書館。本の小口と背表紙という二面性に注目し、それぞれの特性を最大限生かすことで、墓とクリエイティブなワークスペースの二つの空間が本をはさんでつながる。本棚の小口の向く側では、死者の生きてきた証は本を通して生きている人に伝わる。同時に背表紙側では、本棚は納骨堂のように機能する。さらに、その本が新しい命に受け継がれることを遺族が感じ、死者の喪失を埋めていく。
本棚のタイトルを眺めていると、その人の頭のなかがぼんやりとわかるように思えるときがある。「やさしい話をかく作家が好きなんだな」「物理学について興味があったんだな」「マンガが好きだったんだな」とか。もしもそれらが死者のものなら、きっとたくさんの思い出を呼び起こしてくれるだろう。
小口はもっと匿名的だ。誰のものか、何の本かわからない。けれどそこには「どう読んだのか」というしるしがある。垢でくたくたになっていたり、たくさん折り目がついていたり、コーヒーのシミがあったり、涙か湿気でよれよれになっていたり。もしたくさんの小口だけが並んでいる本棚があったら、きっと「絶対に手に取ろうとは思わなかったような本」を手に取ってしまう。「どうして、誰が、こんなにも繰り返しこの本を読んだのだろう?こんなにも面白そうじゃない本を?」
本棚を眺めて、遺族はその人のことを深く思い出すことができる。小口を眺めた、死者に縁もゆかりもない人々は、そこから何かしら新たな発見を得ることができる。そうした本棚の二面性に沿って、空間を配置する。片方の空間ではワークショップや、創作活動や、読書が行える。もう片方では、それはまるで納骨堂のように、誰かが誰かを祈る。
この本棚に人が通れる隙間はない。本を取ると、そこにすきまができる。向こう側を、覗くことができる。意識が、身体で通過してしまうよりもっと深く、「他方」へ入り込んでいく。
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